東日本大震災を受け、東京電力・福島第一原子力発電所をはじめとする原発に支えられた日本の電力供給体制が機能不全に陥っている。産業界にとっては今夏の電力総量規制をどう乗り切るかが喫緊の課題だが、規制が続けば日本経済の活力もそぎかねない。スマートグリッドやスマートメーターの普及が電力欠乏社会に活路を拓く、と説く前グーグル日本法人名誉会長の村上憲郎氏に、問題の処方箋を聞いた。
──震災を受け、電力政策に変革が求められています。
日本の電力政策の根本は、国策としてのいわゆる「安定供給」体制です。電力需要がピークとなる夏の数日間、しかも午後の数時間のために必要な発電設備容量を用意するという仕組みです。具体的には、2010年であれば7月23日に東京電力管内の消費電力が6000万キロワットを記録したわけですが、それに必要な設備容量を東電は準備していた。たとえ年に3日間、合計10時間かもしれなくても、ピーク時に電力ショートを起こさない、国民生活や産業に迷惑をかけないという国家の選択だったのです。
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200億円で原発1基分の節電が可能
──100万世帯へのスマートメーター導入を呼びかけています。
もしメーターを一つ設置するのに2万円かかるとしたら、100万世帯の導入に200億円かかります。これにより、ピークのときに各戸1キロワット節電すれば全体で100万キロワットカットできる。これは原発1基分です。建設だけで2000億~3000億円かかる原発の発電能力が、200億円で賄えることになる。私たちはこれを100万キロワットの「ネガワット発電所」だとか「スマート節電所」だとか説明しています。
消費者に対しては、節電した量に応じて「スマート節電料」といった名目で払い戻しを行う。善意の節電というのは、節電して電気代が少なくなるメリットは受けられますが、ピーク時を避けて夜中に家事をしたときの電力消費に対しては対価を受けられない。このピークシフト部分に対して対価を払うのが、ネガワット買い取りの考え方です。
では、そのおカネはどこから来るのかというと、電力会社は200億円で原発1基分の発電力を仮想的に手に入れたことになる。そうすると、1800億円が使わなかったおカネとしてあるじゃないですか。そこから払うわけです。
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スマートグリッド導入で電力不足は解決できる――前グーグル日本法人名誉会長 村上憲郎(1) | インタビュー | 投資・経済・ビジネスの東洋経済オンライン