福島県南相馬市で6月、原発事故に苦しむ93歳の女性が「お墓にひなんします」と書き残して自ら命を絶ったことを、奈良県の小学男児が自由研究の手作り新聞で学校のみんなに紹介している。男児は「未来の安心のために科学者になってがんばる」と誓う。遺族は女性の無念さが子供たちに届いたと感じている。
女性は東京電力福島第1原発事故の直後に長男夫婦と別々に避難し、帰宅して再び同居を始めて間もない6月22日、「老人は(避難の)あしでまといになる」「毎日原発のことばかりでいきたここちしません」と遺書を残し、命を絶った。毎日新聞はその経緯や遺族の思いを7月9日朝刊で報じた。
手作り新聞を作ったのは奈良県天理市の私立天理小3年、瀧本駿君(8)。夏休みの自由研究の課題に原発事故を選び、経過や影響を模造紙3枚にまとめた。最後に「みんなに伝えたい出来事」として女性の記事(大阪本社発行)の切り抜きを張り、「日本を作ってきた大人の人たちが安心してくらせるように、ぼくたちががんばらなければいけない」と書いた。見出しには振りがなをつけている。
新聞は優れた自由研究として市の施設に展示された後、今も校内に張られている。瀧本君は「原発事故のニュースを聞いて調べてみると、原発は怖いと思った。おばあさんの話を知って悲しくなった」。製作を手伝った母親で看護師の奈奈さん(38)は「難しいからテーマを変えたら、と忠告したが考えを曲げなかった。女性の記事は読んで聞かせ、息子と2人で胸を痛めた」と振り返る。
奈奈さんから送られてきた手作り新聞のコピーを見て、南相馬市の女性の長男(72)は「よくできている」と感心。妻(71)は「ばあちゃんの思いが届いたね」とうなずいた。
【毎日 井上英介】