「ふくしま会議で」
政治屋が「一市民として参加」と断って演説を始めた。
私は拳をきつく握りつづけた。
限界だ。
その時、演説を遮る陽に焼けた男の声がきこえた。
「私は政治家の話をここに聞きに来たのではない。
私は神奈川の藤野町*に住む者で震災から宮城、岩手、そして福島などで出来る限りお手伝いをしてきました。
私はお茶をつくっているのですが、
今年は私たちの足柄茶は放射能で全滅です。
ここにきて、福島の人の話を聞いて未来を考えるために来た。
だから、あなたは黙ってください」
愚かな私は拳の力を抜く事が出来た。
*神奈川の藤野町は合併され行政区分上は相模原市です。
「ふくしま会議で、また」
観念的な話が続いた
私は拳をきつく握りつづけた。
何だ。
ずっと、発言を求めていた男が立ち上がった。
私は牛を飼っています。
国は放射能があるから牛を殺すように言って来ました。
でも、私は、牛を殺しません。
牛飼いの仲間は、お前だけ強情を張るとみんなが困ると怒ります。
でも、牛を殺さず、
生証人として牛を飼い続けます。
このことを孫子の代まで伝えます。
意気地なしの私は拳を引っ込めた。