給食を測定」自治体急増…群馬
16市町村放射性物質への不安受け
学校給食に含まれる放射性物質の測定に乗り出す自治体が急増している。「子供の食」への親の不安を背景に手探りで動き始めた形だが、自治体の予算規模による対応の格差もうかがえる。(酒井圭吾)
「安心与えたい」
群馬県富岡市の幼小中18校に給食を届ける「市学校給食センター」(一ノ宮)。10月26日午前11時、調理されたばかりの「つみれ汁」5人分が袋に詰 められ、女性職員が車に載せた。1時間かけて届けるのは、前橋市荒口町の民間検査機関「食環境衛生研究所」。同市初となる給食の放射性物質の測定だ。
測定結果は、「検出せず」。センター職員の橋本久和さんは「食材は安全だが、親が不安に思う気持ちは止められない。少しでも安心を与えたい」と話した。
東京電力福島第一原発事故の直後、給食の安全を懸念する声は、学校や自治体に殺到した。県は流通する肉や野菜などの検査を実施し、自治体も食材の産地を 公表。声は減ったものの、今でも「本当に安全か?」(太田市)「検査を強化して」(吉岡町)などの意見は消えず、自治体独自で測定する動きが9月頃から目 立ち始めた。
読売新聞が35市町村に取材したところ、既に10市町が食材や調理後の給食の測定を独自に実施している。さらに6市町村は何らかの形での測定を検討中 だ。測定は民間検査機関への依頼が主流で、同研究所は「この1、2か月で市町村からの問い合わせが増えた」とする。また、食材の測定は一部抽出の調査で、
親からは「検査をすり抜けた食材もあるのでは」という心配が根強く、調理後の給食を丸ごとミキサーにかけて測定する方式も増えている。
巨額費用
しかし、のしかかる費用に、測定は月に1~2回程度というのが実情だ。食材の測定費用の相場は、1回に付き8000円~1万5000円。毎日数か所の給 食を測定すれば、月に100万円を超える可能性もある。桐生市は「毎日測定したいが予算的に困難」と明かす。同市の30歳代の主婦は、食材産地に不安を感
じた日は、小学生の長男に弁当を持たせる。主婦は「毎日測定しなければ、ただの気休め」と語気を強めた。
一方で、「長い目で見れば測定器を買った方が安く、回数も増やせる」(伊勢崎市)と考える自治体もある。前橋市は、2台分の購入費を含んだ約1800万 円の補正予算案を12月定例市議会に提出する。8か所の給食センターの食材40品目と調理後の給食を毎日測定し、ホームページで公開するという、全国でも
有数の「厳戒態勢」となる。伊勢崎市やみどり市も購入の予算案を提出する。他に8市町村が購入検討中だ。
不公平感も
町や村を中心とした19自治体では、独自測定の動きがない。南牧村は、測定器の購入やレンタルを検討したが、担当者は「1台350万円はする。村の予算規模では無理」と苦笑。沼田市は「大都市とは予算も含めて状況が違う」とした。
測定器1台を購入するみどり市も運用に悩む。職員が4人だけの調理場もあり、担当者は「前橋市のように測定のために毎日給食を運ぶのは難しい」と話した。
自治体格差を埋めるために、県学校給食会は100万円を捻出し、希望した34市町村に年度内に2回ずつだけ、調理後の給食を測定する。しかし、小学生の子供2人を抱える高崎市の30歳代の公務員男性は「同じ税金を払っているのに不公平だね」と話した。
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食は安全なのか。放射性物質の測定は必要なのか。放射線に詳しい自治医科大RIセンターの菊地透管理主任に聞いた。
関東地域で出される学校給食を食べ続けても、子供への健康被害はほとんどないだろう。
食品には元々、放射性カリウム等が含まれている。例えば、1キロ・グラム当たりでお茶は600ベクレル、干し昆布で2000ベクレル。成人が平均的な食 事内容で1日3食取った場合でも、毎日約100ベクレルを摂取している。群馬の場合、原発事故で拡散した放射性セシウムの食生活への影響は、この「100 ベクレル」から受ける年間0・2ミリ・シーベルトの内部被曝
ひばく
線量に数%加算した程度にしかならない。
食品の暫定規制値に対して疑念を抱く人もいるが、国際的な基準からも問題ない。生涯のがんの死亡率も子供(5歳)の場合、約30%から30・01%になると仮定出来る程度だ。
ただ、安心を得るためにも、市場に出る「食品の監視」は必要だ。食品を「端から端まで」検査することはコスト的にも不可能。しかし、検査をすり抜けた暫定規制値超の食品をたまたま口にしたとしても、現在の汚染状況を考えれば影響はほとんどないだろう。
それよりも、放射能を必要以上に怖がり、ストレスの増加、野菜などの摂取や運動が不足する方が、がんのリスクを100倍以上高める。放射能の正しい知識を持つことが重要だ。
(2011年11月29日 読売新聞)