除染作業 高い障壁
人手・場所確保に悩み
全身を防護しながら裏庭の落ち葉をかき出すボランティア(11日、福島県郡山市で)
原発事故で拡散した放射性物質の除染は、県内でも来年以降に本格化する。既に始まっている福島県では、行政や住民が、人手や仮置き場、安全の確保に腐心する。郡山市の除染ボランティアに参加し、群馬も直面するであろう課題をみた。(酒井圭吾)
■手作業
気温5・4度、降りしきる小雨。レインコート、防じんマスク、ゴーグルで顔を隠し、ともに作業するメンバー13人と円陣を作る。「内部被曝(ひばく)はくれぐれも気をつけて。マスクはしっかりつけてください」。11日午前10時、除染ボランティア団体の滝田英明さん(37)の指示で作業が始まった。
除染するのは、母屋と別棟が裏庭を背負う農家の住宅(阿久津町、敷地約900平方メートル)だ。3班に分かれ、記者は庭の落ち葉や土砂の除去担当に。空間放射線量は高い場所で毎時1・7マイクロ・シーベルト(高さ1メートル)、雨どいは5・35マイクロ・シーベルト。メンバーから驚きの声が漏れる。
斜面上で足を踏ん張り、熊手で放射性物質が付着しやすい落ち葉をかき出し、手でゴミ袋に入れる。全て手作業だ。落ち葉に交ざり農具の鉄片が手にあたる。曇りがちなゴーグルを外すと、土煙が目に飛び込んだ。
この住宅の除染は2日目だが、14人がかりでも「完了」までは程遠い。高圧洗浄機を使うコンクリート地面の除染も、1日で長さ10メートル、幅3メートルしか進まない。滝田さんは「街中で除染が始まれば、何人いても足りない」と苦笑した。
■業者も必要
薄暗くなり、除染後に測定すると、雨どい(地表)は5・35マイクロ・シーベルトから1・84マイクロ・シーベルト、玄関前(高さ1メートル)は、0・5マイクロ・シーベルトから0・2~0・3マイクロ・シーベルトに下がった。この家の大河原悟さん(34)は「一定の効果があった」と喜んだ。
だが、軒先や、裏庭の一部では逆に線量が上がった。土を掘り返すことで、拡散した可能性があるという。屋根部分は安全面を考慮し、除染を実施しなかった。
高所部は業者への委託が主流だが、不確定の相場や未開分野の技術に、不安要素は多い。裏庭も樹木の伐採や洗浄、土の掘り返しは、素人には難しい。
メンバーの東京都の男性(40)は「信頼できる業者が率先していくような態勢が必要」と、業者育成の重要性を話した。
■仮置き場
作業が進むにつれ、落ち葉を入れた袋や、はぎとった土砂入りの土のうは山積みになった。全部で約60袋以上。落ち葉入りの袋周辺の空間線量は、1・8マイクロ・シーベルトを計測した。
福島では、仮置き場の確保が難航している。大河原さんは、所有する土地への一時保管を考えているが、今は軒下にある。「これが一番の問題だ」とため息をついた。
除染作業後、滝田さんが作業場所からそれぞれの推定放射線被曝量を計算。記者は、参加者のうち最も高い約4・8マイクロ・シーベルトで、滝田さんに「今後参加するとしても、あと20回程度にしてください」と説明された。年間の追加被曝線量を1ミリ・シーベルトと設定し、算出された。
今後増える、市民の除染参加には、健康リスクの懸念払拭が必要となる。
◎
群馬県では、国から支援を受ける「汚染状況重点調査地域」の指定に、12市町村が要望し、今月内の正式指定を待っている。前橋市や高崎市は、独自で除染する考えを明らかにしている。
除染計画を立てる上で、必要なのは住民協力の取り付けとノウハウの蓄積だ。
地区住民の参加は効率的な除染につながる。郡山市では、町内会が総出で歩道や住宅などを一斉に除染する作業も始まっているが、参加に難色を示す人も少なくないという。
仮置き場探しでも住民への説明は重要だ。群馬で除染の大半を占める山間部の集落や山林の作業は容易にはいかないだろう。除染業者の育成も含め、効果的な除染方法を積極的に取り入れる必要がある。
(2011年12月13日 読売新聞)