「原発事故の最悪シナリオが避けられたのは“幸運”に恵まれたからです」
今、戒めるべきは「根拠の無い楽観的空気」
元内閣府参与 田坂広志
筆者は、東京電力福島第1原発事故を受け、内閣官房参与として2011年3月29日から9月2日まで、官邸において事故対策に取り組んだ。そこで、原発事故の想像を超えた深刻さと原子力行政の無力とも呼ぶべき現実を目の当たりにし、真の原発危機はこれから始まるとの思いを強くする。これから我が国がいかなる危機に直面するか、その危機に対して政府はどう処するべきか、この連載では田坂氏がインタビューに答える形で読者の疑問に答えていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20120207/226949/?rt=nocnt
朝日新聞の連載記事「プロメテウスの罠」(転載)
「震災から4日目、昨年3月14日朝のことだ。
3月14日の時点でSPEEDIを知る政治家はほとんどいなかった。
首相の官直人(65)や官房長官の枝野幸男(47)ですら認識していなかった。SPEEDI情報を官邸中枢に伝えるべき官僚が、それをしなかったのだ。
官邸中枢が存在すら知らないSPEEDIのデータが、米軍にはいち早く渡っていた。昨年12月、その事実を伝えると、菅の声のトーンが上がった。
「全然知らなかった。一番伝えなきゃいけないところに、なぜ伝えなかったんだ」
米軍の依頼を受けた外務事務官木戸大介ロベルトは、霞ヶ関をあちこち「たらい回しされてみつけた担当部署の文部科学省の防災環境対策室に「データを直接米軍に提供してほしい」と伝えたが、
回答は「震災後のどたばたで手が足りません」で、
木戸は「それなら私の方でリレーしましょう」と答えた。
その後、「1時間ごとのSPEEDIのデータは木戸のパソコンへ届いた。地図データだったため、情報量は多かった。パソコンに入るデータ量はメールの送受信に支障が出るほど膨らんだ。
木戸は自動転送と,転送後の自動削除にパソコンを設定した。データは7月まで順調に米軍に流れた。」
内閣府参与の田坂広志氏も含め
「起こった危機の原因、経緯、現状が、明確に把握できていること」も
「起こった危機への対処、管理、制御が、明確にできること」もなかった。
「SPEEDI情報を官邸中枢に伝えるべき官僚が、それをしなかったのだ」に関する私の見解は備えは無かった、自分たちで作った対応案は実戦に耐えられないもので、それすら分からなかった。
東電の計画停電のように立案はされているが、実行できるものではなかった。