放射線の問題に対しては真摯な気持ちで取り組んでいきたいから…
職を賭して伝えなくてはいけないこともあります。
例えばこのようなことがあります…
現在、いわき市の復興イベントで福島原発近くの福島県大熊町のホタルを放流し、大熊町から避難してきている住民を応援し、町の復興に結びつけようとするプロジェクトがあります。
http://www.f-hotaru.jp/
このプロジェクトに対して私が警鐘の意味を込めて地元紙に投稿した記事です。
今回のプロジェクトに関しては早い段階で把握しており、初期は主催側から協力も求められていました。
目的が被災者支援、風評被害対策の一環で行うという点で最大限応援をし、その際、生物多様性を守れるのなら、ご協力させていただきますと伝えていました。
ホタルの放流よりも先にホタルの棲める環境作りを、まず行わなくてはならないこともお伝えしました。
放流するだけでは意味が無く、定着させていかなくてはいけません。
そして、様々な生物の放流活動が与える、生物多様性の破壊についてもご説明させていただきました。
その後、具体的に協力を求められることはなく、他のホタルの専門家の助言の元にプロジェクトを進行していることを聞きました。
結果、私が放流の事実を知ったのは6月4日のテレビの報道によるものでした。
45.7km。この数字はいわき湯本駅から大熊町役場までの直線距離です。
地図をよく見て頂くと分かるのですが、この間にたくさんの川が流れています。
このプロジェクトでは熊川水系のDNAを持つゲンジホタル300匹が湯本川調節池に放流されました。
飛翔能力が弱いホタルにとってこの距離はどういう意味があるのでしょうか?
淡水棲生物は河川ごとに遺伝子の違いが見られる場合もあり、むやみに放流をすると遺伝子の拡散が起こり、「生物の多様性」を破壊することになってしまいます。
生物多様性の保全は「種の多様性」、「遺伝子の多様性」、「生態系の多様性」の3つの柱があります。
「遺伝子の多様性」とはそれぞれの地域個体群の遺伝子を保全する(他地域の個体群との雑種化を防ぐ)ということです。
復興のためのプロジェクトの主旨は理解できますが、生物の「遺伝子の多様性」の保全のために今回のホタルの放流自体には私は反対です。
なぜなら、この放流地点5キロ圏内に最低3カ所以上のホタルの生息地があるからです。
元々ホタルが生息している土地になぜ、遠く離れた地域のホタルを放流するのか…
憤りを感じます
この写真の場所は今回放流された地点から数キロ離れた、地元の方々が大事に見守っているホタルが生息している里山です。
本来、ホタルはこのような場所に生息しています。
では、放流された場所は…
国道がすぐ横にあり、交通量も多い場所です。
これでは車のヘッドライトに惑わされ、ホタルは繁殖できないと思われます。
そして…
コイだらけ。
こんな所でホタルの幼虫が育つのか疑問です。
確かに今回放流した場所は…
大きなコイが入り込めないようになっていますが、どう考えてもこの場所では再生産は難しいでしょう。
幼虫を放せば、その年はホタルは光りますが…
ホタルを光らせるために毎年放流するつもりでいるのでしょうか?
先日の台風でこの調節池も増水し、濁流に流されていました。
この時、どれほどのホタルの幼虫が流され、その先にあるコイの池に入ったのか…
自然保護の観点からは放流された他の地域のホタルが定着できないことは喜ばしいことですが、このような放流は、ただホタルの命を無駄にしているだけに過ぎません。
アクアマリンふくしまの「オセアニック・ガレリア」には淡水環境の保全のコーナーがあります。
ここでは震災前からホタルの放流について警鐘を鳴らしています。
今回のプロジェクトが、ただ単にホタルの放流だけなら、再生産のできそうにない土地ですし黙認する事も可能でした。
なぜなら、過去に何度もこのようなホタルの放流事実があるからです。
今更…というわけです。
いずれ、この国内移入種の問題は法整備も含めて考えねばならないことですけどね。
なかなか、この問題が解決しないのはホタルの放流はもともと、動物園水族館の主導のもと行われていた事だから大きな声をあげづらいのかも知れません。
分子生物学の進歩により、遺伝子の解析が進む中で、ようやく他地域からの生物の放流を極力、行わないように注意を払うようになってきました。
「生物多様性」の問題とは別に私が問題だと思っているのは「ホタルは0.5μSv/hの放射線を浴びると光らなくなる」と主催者は主張し、ホタルが復興に結びつくと信じてプロジェクトを行っている点です。
「ホタルは0.5μSv/hの放射線を浴びると光らなくなるので、ホタルの光るところは放射線が低い」とアピールしたいようですが、本当なのでしょうか?
我々は昨年3μSv/hの土地でホタルが光っていることを確認しています。
そこで、6月12日に直接、そのホタルの専門家に会いに行きました。
以下、聞き取り調査の結果です。
●0.5μSv/hでホタルが光らなくなるとの研究は茨城大学との共同研究で行ったとのこと。
データを頂きたいと申し出ましたが、「文部科学省から止められているから出せない」と断られました。なぜ止められているのか理解はできませんが、論文としては発表されていないようです。
●実験自体は7年前に行ったそうで、放射線源にラジウム鉱石を使用したとのこと。
●0.5μSv/hで発光細胞が破壊され始めるのであって、光らなくなるわけではないことも、認めていました。では、実際に光らなくなると思われる線量はどれぐらいであるか質問したところ20mSv/hで光らなくなるのではないかとも。
実験内容があまりに不審な点が多かったため、今度は茨城大学の放射線が専門の教授にお問い合せしました。
以下、回答です。
ホタルの件ですが、生物学的にそのようなことはありえません。ヒトの細胞でも0.5マイクロシーベルト毎時の条件では死ぬことも機能変化することもありません。昆虫の細胞は、基本的にヒトの細胞よりも放射線に強いので、そのようなことはないはずです。マイクロがない線量率ならば(つまり0.5シーベルト毎時で何日も飼えば)あり得るかもしれませんが、そんな施設は本学にはありません。
茨城大学の放射線生物学者は、小生以前には環境放射線をやっていた人がおりました(すでに定年退職済み)が、その方がそのような実験データを出せる手法をお持ちであったとは思えません(そもそもそれなりの線量率が出せる放射線源は小生が着任するまでは茨城大学にはありませんでした)。また、ラジウム鉱石で照射するなんて専門的な実験とは申せませんし、それだけのラジウム鉱石は茨城大学にはありません(これは小生が本学の放射性物質の安全管理責任者として、把握している事実です)。7年前には小生は茨城大学に来ておりましたが、少なくとも理学部(理工学研究科の理学系)ではそんな実験をしたという話はありませんし、文科省からの研究費でそのような実験があったとも聞いておりません。
基本的に文科省の研究費で公表不可ということはありませんから、もしあれば、学内ですぐに追求を始めます。
とのことでした。
最初、茨城大学さまにご迷惑が掛かると悪いので、大学名は伏せようと考えていましたが、公表しても構わないとの事でしたので、お名前をださしていただきました。
ありがとうございました。
ということで、何ら科学的根拠のない事象をもとに今回の復興プロジェクトが行われています。
件のホタルの専門家のブログを見ればどんな人物か分かりそうなのに…
「放射性物質をナノ純銀が減らす」などの科学的な根拠のない記事も目立ちます。
何故、今回のプロジェクトの主催者たちは調べなかったのか?
それは、自然保護とは別に町に観光客を呼びたいだけのイベントだったからでしょう。
先に紹介した地元紙での私の警鐘は主催者たちを激怒させました。
「福島県へ抗議する」との脅しともとれる抗議文が会社に送られてきました。
まあ、元より、このブログで福島県への嫌みを書き綴っている私としては、あまり意味のないことなのですが…
A4用紙4枚にわたって、今回の詳細を主催者に伝えましたが、あまり理解されなかったようです。
2回目の抗議文が届きました。
その中の一文を私は見過ごす訳にはいきませんでした。
「我々は、ホタルも大事であるが、自然保護活動を主なる目的としているものではなく、いわき湯本温泉の復興を願い活動するものであり…」
地元の復興のためなら何をやっても良いというのか?
仮に、ホタルの専門家の実験の内容、0.5μSv/h でホタルが光らなくなることが事実だった場合、それによって、いわき市が安全だと世間に伝わるかも知れませんが、普通に0.5μSv/h 以上ある場所が多くある、他の地域の方は今回のプロジェクトをどう思うのでしょうか?
自分たちはホタルも棲めないところに住んでるのかと思ってしまうのではないでしょうか。
0.5μSv/h 以上は危険だと福島県外の人々に捉えられませんでしょうか?
福島復興を促進するはずのプロジェクトが逆に風評被害を引き起こさないかと懸念を抱きます。
観光施設である水族館が、地元の温泉街のイベントにクレームを付けるということは、本来、やってはいけないことです。
しかし、これは福島県全体の信用に関わることです。
私にしか知り得なかった事実は、私が公表する義務があると思い、この記事を書いています。
ただ、会社の業務命令としてこの記事の削除を求められるかもしれません。
ですから、退職願を明日、出すつもりでいます。
この「アクアマリンふくしまの復興日記」を応援してくださったみなさま。
いままで、応援してくださいまして、ありがとうございます。
このような終わりかたをしてしまい、申し訳なく思っております。
このブログの記事は7月31日に非公開設定に致します。
ただ、最後ですので今回の記事に限りコメントを可能にしておきます。
1年と4ヶ月もの間、お付き合い頂きましてありがとうございました。