SNS疲れ? 相手限定アプリで本音の付き合い
恋人・ママ友…専用サービス続々
恋人同士が2人だけで利用するアプリ、限られた友人や家族のみに日々のつれづれを公開するアプリ――。親しい仲間に限定してやり取りするコミュニケーションサービスが続々登場、若者を中心に支持を集めている。すでに普及した交流サイト(SNS)、フェイスブック(FB)やミニブログ、ツイッターに比べ、相手が限定的で「内輪」感が強いのが特徴だ。自分が信頼できる相手とのみ、ひそやかに本音を交わし合う。そんなサービスが人気を集める理由を探ってみた。
http://www.nikkei.com/article/DGXBZO46846510T01C12A0HP0A00/
「他の人に見られない分、本音のやり取りができる。2人の写真など思い出をアプリ上で共有できる点もうれしい」。都内の会社員、鈴木亜佐美さん(仮名、23)は、大学院生の恋人(23)と連絡や写真の共有などに“カップル専用”アプリ「Pairy(ペアリー)」を使う。忙しく、思うように会えないことも多い日々。それでもメール代わりにチャットを利用、アップした2人の写真を眺めれば、一緒にいる感覚を味わえる。
ペアリーは、ITベンチャー、TIMERS(東京・港)が6月に公開した。恋人の2人以外、書き込みはもちろん、閲覧も不可。チャットに加え、互いのFBやツイッターの投稿にこっそりコメントできるほか、「相手の好きなところ」「第一印象」など、互いの情報を共有する「ペアプロフ」機能が付いているのも特徴だ。
ユニークなのは「(相互監視など)ネガティブな要素につながる機能は搭載しない」(同社の田和晃一郎COO)点。たとえば位置情報の登録は、居場所が分かり、けんかになりかねないため省いた。スケジュール共有も行わない。
■現実に即した人間関係が前提
FBと類似した機能を人数限定で公開するのは「Path(パス)」。アメリカ発のアプリで、特徴は「日々の生活を親しい人や家族とのみ分かち合う」(パスHPより)と明示している点。ビジネス上の知人や昔の同級生とも「友だち」になるFBに比べ、より現実世界に即した人間関係を前提にしている。そのため、情報共有する相手を150人に限定。写真の共有のほか「寝る、起きた」「聴いている音楽」など他愛ない日常を記録するライフログとしても使える。
日本では家族や恋人同士で利用している人が多いようだ。ITライターの三橋ゆか里さんは「パス経由の情報は、自分の『大切な人たち』の行動に限定されている。息遣いが感じられる密接さが特徴」と指摘する。FBやツイッターが、多くの人に向けて「自分」を発信するのに対し、ペアリーやパスは、現実の人間関係を補強する意味合いが強いといえる。
■「ブログと違って必ず返信がある」
みんなの交換日記wakkaを楽しむ清水さん(東京都渋谷区)
一方、オンライン上の人間関係でも、限定的なやり取りを楽しむサービスが登場した。
「ブログだと何の反応もないことがある。しかしこれなら必ず返信があり、面白い」。群馬県高崎市の主婦、清水千和さん(25)が利用するのはサイバーエージェントが8月に出したスマホ向けサービス「みんなの交換日記wakka」だ。スマホ上で、見知らぬ人とも交換日記ができる。閲覧はいつでもできるが、書き込みは順番に回ってくる仕組みだ。
内容を公開して参加者を募ったり友人同士、完全非公開に設定したりできる。清水さんはネットで参加者を募集、全国のママ計6人で「新米ママの交換日記」をしている。「現実世界のママ友関係は気を使う。オンラインなら適度に距離をとれ気兼ねなく付き合える」
■オープンなSNSの利用に疲労感
東京大学大学院の橋元良明教授が今年6月に実施した調査によると、10代(15歳~)の65%が、20代の75%が、ミクシィやFB、モバゲーやグリーなど、何らかのSNSを利用している。全世代でも56%となり、2010年の23%から倍以上に跳ね上がった。
ただ、一方で「過去の友人ともつながりができ、自分の全人生を背負わざるをえなくなる」(橋元教授)など、SNS利用に疲労感を覚える人は少なくない。パスやペアリーなどの“相手限定”のコミュニケーションサービスはその感覚をうまくすくい上げた。
オープンなSNSに比べ人間関係が濃密な分、自分の発信に対し、確実に反応が得られるのも人気の一因だ。アプリに詳しいライターの池田園子さんは「利用者が増えるにつれFBやツイッターへのリプライは少なくなるが、相手限定アプリは必ず返信があり温かみがある」と話す。
■「LINE」も限られた相手が対象
世界で6千万、国内でも2800万人の利用者を抱える無料通話・メッセージアプリ「LINE」も、スマホの電話帳をベースに、現実世界に即した限定的な人間関係を前提とする。8月にはSNS機能も追加、写真やコメントを投稿し、友人に近況を知らせることができるようにした。
博報堂DYグループソーシャルメディアマーケティングセンター事務局長の堀宏史さんは「オープンなSNSとクローズドなコミュニケーションサービスの関係は、実生活でのワークライフバランスのようなもの」と指摘する。FBなどで表向きの自分を発信し、親しい仲間とは肩の力を抜いて本音で付き合う。オンライン上でもそんな人間関係の使い分けが進みそうだ。
(松本史)