宮城・南三陸町 声届かぬ公共事業 東京新聞
「コンクリートから人へ」。民主党の公約が注目を集めた前回衆院選から三年。すでに公共事業回帰の流れは顕著なうえ、自民党は公約で「国土強靱(きょうじん)化」をうたう。復興の名の下に、多くの工事が進む東日本大震災の被災地では、故郷がコンクリートで「強く」なることへの疑念の声も出ている。 (福田真悟、中山高志)
カキやワカメを育む宮城県南三陸町北東の静かな入り江。流れ込む伊里前川は、サケやシロウオが捕れる。震災の大津波で街は破壊されたが、自然の恵みは今も変わらない。
「必要以上の工事をすれば、故郷が変わってしまうのでは」。小雪が舞った十三日朝、漁業を営む千葉拓さん(27)が静かな口調に憤りをにじませた。海岸部に八・七メートルの防潮堤を新設し、川の両岸にも高い堤防を築く計画が持ち上がっている。
新しい防潮堤の高さは、震災前の倍近く。千葉さんは「それ以上の高さが来たら終わり」と冷めた見方だ。巨大堤防が大津波を防ぎきれなかった震災の記憶は、まだ生々しい。陸から海が見えなくなるなどの景観悪化や、長期にわたる工事による自然への悪影響がむしろ心配だ。一九九三年の地震で大津波に襲われた北海道の奥尻島で、巨大な防潮堤を建設した結果、海産物の水揚げ量が減ったとの情報も耳にした。
千葉さんは十月ごろから、行政の担当者に何度も計画見直しを求めた。防潮堤のあり方について考える勉強会が開かれるなど、地域内でも再考を求める機運は高まっている。
しかし、事業主体である県の対応は「方針はもう定まっている」と冷淡だという。「地域の思いを押し切ってまで、計画を進めていいのか」。千葉さんの怒りは尽きない。
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町の中心部でも、海や川沿いに大きな防潮堤や堤防を建設する計画が進む。
「目に見える物だけに頼れば、再び津波が来た時、かえって危険になるのでは」。津波に押し流されたままの無残な更地を見下ろす丘の上の神社で、父や夫と神主を務める工藤真弓さん(39)は不安を打ち明ける。
一帯は、昔から何度も津波に襲われた。「引き潮を見たら逃げろ」。先人の言葉は脈々と引き継がれ、昨年の震災でも多くの命を守ったという。
工藤さんは五歳の長男に、地域が育んだ知恵を継承してほしいと思う。しかし、街から海が見えなくなるほど巨大な防潮堤が完成すれば「自らを守る意識が薄らぎ、思考停止に陥る」と懸念する。
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多くの町民が仮設住宅暮らしを強いられる中、衆院選が始まった。「一律のやり方を押しつけず、地域の歴史や個性に配慮した公共事業を考えてくれる党に票を入れたいんですが」。工藤さんは、津波で全壊した町庁舎跡を見て、ため息をついた。「見つからないんです」。投票日は十六日に迫った。