8月20日付・自虐的子ども観
政府の教育再生実行会議が2月、いじめ対策を提言し、6月には議員立法で「いじめ防止対策推進法」が成立した。どちらも道徳教育の充実・強化を掲げている。
この問題に関する国の認識を確認しようと、2012年度の文部科学白書を開いた。道徳教育に関する記述は、教育改革などの「特集」に続く「初等中等教育」などを扱った章にあり、次のような現状認識を展開していた。
「我が国の児童生徒については、生命尊重の精神や自尊感情の乏しさ、基本的な生活習慣の未確立、規範意識の低下、人間関係を形成する力の低下など、心の活力が弱っているとの指摘がなされています」。
これ以外に、子供たちの「心」の状況に関する記述はなく、白書はこれだけを根拠にストレートに「道徳教育の一層の充実が求められています」と結論付ける。基礎となる社会調査も研究も示されず「指摘がなされています」という無責任な書きぶりで、科学的な検証もできない。
「生命尊重の精神が乏しい」と断ずる根拠は何だろうか。警察庁統計によれば、03年に殺人で検挙された少年は93人だったが、12年には46人に半減。強盗や放火、強姦など他の「凶悪犯」も大幅に減っている。
「規範意識の低下」というが、刑法犯だけでなく、未成年の飲酒や喫煙にも社会の厳しい目が光るようになった。「心の活力」に至っては、それが何を意味するのかさえ不明だ。
この自虐的ともいえる子供観こそが、子供たちを追い込んでいるのではないか。(K)