くらしナビ・ライフスタイル:貧困家庭の子、ひとりぼっちにしない 居場所作り寄り添う
毎日新聞 2013年09月14日 大阪朝刊
貧困の中で育つ子どもにどう寄り添うか−−。大学生らに暮らしを支えられて貧困家庭の子どもが変わっていく短編動画がインターネット上で公開され、話題だ。子どもの貧困対策法が成立して3カ月。問題に関心が高まる中、動画を制作したNPO法人「山科醍醐こどものひろば」(京都市山科区)は「文化や人との出会いを失わせてしまう貧困の現実を知ってほしい」と呼びかけている。【反橋希美】
■京都のNPO
動画は「貧困を背負って生きる子どもたち 仁(じん)の物語」(前後編計11分)。生活保護家庭で暮らす中学3年の仁が、大学生ボランティアに生活や学習の支援を受け、進学を目指すまでを描く。昨年12月に動画共有サイト「ユーチューブ」にアップされ今夏までに再生回数が計10万回を超えた。
仁は、心の病気を持つ母親の通院付き添いや弟の世話で「学校に行ってる場合じゃない」と不登校に。大学生らと夜を過ごす活動に参加し「たわいもない話をする夕食って、いつ以来やろうか」とつぶやく場面が印象に残る。
動画で描かれる活動は、ひろばが2010年7月から実際に行っている「トワイライトステイ」だ。ひろばの村井琢哉理事長(32)は「支援してきた複数の子の実話を合わせてつくったが『子どもの心情がよく分かる』と好評だ」と話す。
■学生と共に夕食
事業は小中学生が対象で、活動時間は午後5〜9時。商店街の空き店舗を活用したスペースで、子どもは大学生ボランティア数人と勉強したり、ゲームをしたりして自由に過ごし、夕食を皆で囲んだ後は銭湯へ向かう。家庭的な雰囲気を重視して、1日に受けるのは1〜2人だ。
9月初めの活動を見学すると、中学1年の男子生徒がボランティアの大学生とシチューを作っていた。普段も料理を作る機会が多いという男子生徒は、手際よく包丁を使ってタマネギを切る。「さすが! 次はなに切る?」。ボランティアの会話は子ども主体だ。男子生徒は「ここにいる時が、一番落ち着く」と笑顔で話した。
利用者には、不登校や非行、勉強の遅れなどの問題を抱える子も少なくない。児童相談所で保護するほどではないが、家にも学校にも居場所がない。そんな子どもたちが「ホッとできる夜が週に1度あるだけで変わっていく」(村井さん)という。仁のように不登校だった子が高校に進み、学校生活を楽しんでいる例もある。他に学習支援に特化した事業や、小学校と提携し、夜間ひとりで家で過ごす小学生の「通学合宿」、事業を「卒業」した高校生を地域のボランティア活動につなぐ取り組みも始めている。これら貧困対策事業を利用した子は現在も含め計50人。登録している学生ボランティアは約200人に及ぶ。年間事業費約1000万円は、寄付や自治体からの補助金などで賄っており、ひろばには今、全国から視察が相次いでいる。
■学ぶ意欲も育む
厚生労働省によると、09年の子どもの相対的貧困率(標準的所得の半分以下の世帯の割合)は15・7%で、子どもの6〜7人に1人は貧困家庭に育つ。国は生活保護家庭の子ども向けに学習支援の補助事業を行っているが、実際に実施しているのは12年度で94自治体と一部にとどまる。
学習支援は、秋の臨時国会で政府が成立を目指す生活困窮者自立支援法案にも盛り込まれ、注目されている。村井さんは「子どもには『この社会に生きていていい』と思える、勉強する意欲も持てるための取り組みが必要」と強調する。
日本福祉大の野尻紀恵准教授(教育福祉)は「学習支援に取り組む団体は多いが、学力アップのみを目的にしていると、来る子どもが減ってしまう傾向がある。ひろばのように、地域のニーズをくみ取る支援が求められる」と話す。
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◇活動内容、詳しく本に
ひろばは今年7月「子どもたちとつくる 貧困とひとりぼっちのないまち」(かもがわ出版、1260円)を刊行。1980年に「子ども劇場」の活動から発足したひろばが、なぜ貧困対策に取り組むことになったのか、活動を始めた背景と事業内容が詳しく紹介されている。書籍と寄付の問い合わせは、山科醍醐こどものひろば「こども生活支援センター」(075・201・3490)。